1987年に免疫学の抗体遺伝子でノーベル医学生理学賞を受賞した利根川進氏はMIT大学で痛みについてグループ研究を続けています。
その中で、外傷等で神経の障害によって引き起こされる慢性の痛みが起こる機序に重要な役割をしている物質を特定しました。
これは脊髄の中の細胞内伝達系のPKCγ(プロテイン・キナーゼ・ガンマ)という物質です。
痛みを伝える神経が障害されると、触覚を伝える神経が新しい枝を伸ばし痛みの神経に接触して痛みを伝える神経回路ヘバイパスが形成されます。
ですから軽く触られたり、触れられたりする非常に弱い信号を脊髄の中の痛みの神経に伝えるのです。
そこでPKCγがその信号を増幅させ大脳皮質に送る為に、強い痛みを感じるのです。
ですから、利根川らのグループの実験で遺伝子操作してこの物質を欠損させたマウスは神経を損傷しても神経障害性の疼痛は起ら無かったと報告しています。
この様な脊髄の中で痛みの信号を増幅させる物質は他にも見つかっています。
よく知られた代表的なものにP物質(サプスタンスP〉や神経の興奮を伝える興奮性アミノ酸(EAA)などがあります。
特にひどい外傷や手術の跡等に、激しい痛みの聘激が脊髄に伝えられ続けると、触角を伝える細胞にP物質を作る遺伝子が誘導されてしまいます。
この状態が形成されると、傷口が治った後でもそこを触っただけでも痛みや痺れが起こります。
この様な状態を特に「アフロディニア」(異痛症)と呼んでいます。
いずれにしても、慢性的な痛みが起こるのは末梢から中枢までの神経回路の中で複雑なプロセスが生じて起こっているのです。
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